大江戸エンターテインメント・シリーズ第一弾
山直版 寛永御前試合
~独眼狼見参!
作・演出 山田 直樹
時は寛永十一年、三代将軍家光の頃・・・。
柳生の庄で奔放に生きる隻眼の剣士「柳生十兵衛三厳」。
ところがその厳ついイメージとは裏腹に、当の本人は酒と遊びと女にウツツを 抜かす放蕩息子。
何かと理由をつけては稽古をサボり、ふらりと姿を消して しまう。「兄上は柳生家の嫡男ですぞ!」・・・弟:又十郎の小言も、 「十兵衛殿~!拙者の想い、受け止めて下さりませぇ~~っ!!」・・・ 同門の弟子:荒木又右衛門のちょっと偏った(?)恋の雄叫びも、 道場に空しく響くのみ。
将軍家剣法指南役として使える家柄を疎ましく思いながら、ただ季節折々に 吹きすぎる風を受けて飄々と生きる十兵衛。そんな彼の目に、突如ただならぬ 風景が飛び込んで来た。
多勢の刺客に襲われる 一人の若い娘。
捨て置く事もままならず、何とかその場をやり過ごして結果的に人助けをした 十兵衛に、その娘:悠姫は突然思いも拠らない話を始めた。
自分の故郷:佐賀が家臣の企みによって乗っ取られてしまった事。
その後彼女の一族:龍造寺家が追い討ちをかけられ、皆殺しにされた事。
そして・・・その仇討ちに、十兵衛の力を借りようと九州から旅をしてきた事・・・。
彼女の目から、幾筋もの涙が頬を伝った。
金や権力では動かない十兵衛の心が、その瞬間、健気な娘の瞳に揺れた。
そんな折り、予てから柳生家と勢力を争っていた老中:松平伊豆守信綱が、 家光に御前試合の開催を唆す。剣法指南役の柳生家や小野家も含めた大イベント として、侍共の気を引き締める為だと言う。
本来「将軍家お家流」は他流試合厳禁、つまり他人に知られてはいけないものであるが、 伊豆守の口車に乗せられた家光は調子付き、柳生家も参加するように命じてしまうので あった。
この御前試合、家光にとっては単に娯楽に過ぎなかったのだが、実はそれ以外にも 二つの意味を持っていたのであった。
まずは仕掛人の伊豆守側。
彼は腹心の部下:服部半蔵より『柳生十兵衛 噂ばかりで 実はナマクラ』と いう情報を得、これをネタにライバル:柳生家の衰退を目論んだのだ。
剣豪と噂される大目付柳生家の嫡男が、ただの ぐうたら息子だと世に知れれば これはもう面目丸潰れ。もともと武芸者の高位獲得を快く思っていなかった 伊豆守にとって、これは「柳生潰し」の恰好のチャンスであった。
そして当然その企みに、但馬守も反撃に出た。
十兵衛を出す代わりに“松平家の代表”として宮本武蔵を出場させる様、要求を出した。 宮本武蔵自体が既に俗世から離れた雲隠れ状態。果たして一筋縄で探し出し、 出場を説得できるのであろうか?
但し、公儀隠密:伊賀忍者のネットワークを誇りにしている伊豆守にとっては これが「不可能」と言う結果に終わる事、それこそが面目が立たないと言うものである。
かくして御前試合は、お互いの立場と意地の壮大な賭けとなったのである。
柳生家側で即座に行動をとったのが、剣法指南役として城に仕えていた次男:左門。 彼は元々柳生家の正統な血を引く息子ではなく、幼い頃から「妾の子」と言うコンプレックスを 抱いて生きて来た。そんな複雑な思いを胸に柳生の庄に戻ってきた左門を迎えたのは、 ただ一人心を許した侍女:志帆であった。
再会の喜びも束の間、左門は衝撃的な事実を知る。
志帆が、柳生家発展の礎となる政略結婚の為に、大老:土井大炊頭の子息の元に 嫁入りをすると言うのだ。
御前試合への策と、己の中の絶望と。
この時、左門の中で、何かが静かに狂い始めた・・・。
一方、服部半蔵は、伊豆守から二つの命を受け、まさに東奔西走であった。
先ずは「宮本武蔵」の出場依頼。これに関しては居場所を突き止め、小倉を訪ねて話を進めるまでは 良かったが イザ決断 と言う瞬間に、正体不明の二人組「鶴乃丞・亀之助」と名乗る 傾奇者に襲われる。何を目的に現れて人を翻弄するのか見当も付かない上に、強い。 武蔵・伊織・半蔵、それぞれに逃げ切りはしたが、結局半蔵は伊豆守の命を果たせず終い。
そして二つ目の命「柳生十兵衛=ナマクラ」の確証を掴む事。
こちらに関しては半蔵の配下の忍者が送り込まれた。十兵衛を闇討ちにして様子を 見ようというのだ。ところが柳生の庄に送った忍者が唯一人を残して 返り討ちに合うと言った始末。真相は如何に!?
そしてそれぞれが第二の策に出た!
先ずは痺れを切らした伊豆守。
自ら半蔵を従え、着流し姿で武蔵の後を追う。 命辛々江戸に向かう武蔵を見つけ出し、何とかオダテてでも出場させようと 気を揉む。ところが宮本武蔵は、老中相手に商談を始めたのだ。
「自分がセコンドに付いて、出場は伊織が果たす事」「優勝したら五千両」と。 余りにも突飛な申し出に、必死に怒りを押さえる伊豆守。それでも渋々、 条件を飲んで武蔵に釘を刺し、半蔵にも出場を命ずるのであった。
・・・そして、柳生左門。
彼はその明晰な頭脳の中で着実に計算を重ね、父:但馬守に一つの条件を出した。 今回の御前試合、十兵衛優勝の策が成功したら、志帆を自分の嫁として貰い受ける と言う内容だった。自分が動いて策を講じれば土井家の助けは要らぬ、さもなくば 全ての策より手を引くと、こちらも大物相手に勝負を挑む。
話をはぐらかそうとする父を押さえ、ごり押しで承諾の返事を奪い取る左門。
そして・・・その話に嬉しさも感じながら、どうしても一抹の不安が拭い切れない 志帆。「私を信じていてくれれば良い」
・・・左門の言葉に頷きつつも、安堵の表情とは別に ひっそりと一つの決心をする志帆であった・・・。
そして我等が十兵衛は、と言うと・・・?
一度は悠姫を連れて「龍造寺家再興」の申し入れの為に父:但馬守の元、江戸へ 向かうが、当然ながらそれ所ではない状況に、十兵衛は稽古付けの日々となる。 荒木又右衛門の「愛の特訓」にヘトヘトになった十兵衛の前に、突如妖しい集団が 現れる。覆面の剣士、そして、宮本父子をも襲った「傾奇者」!
その場に気付いたのも時既に遅し。 弟:又十郎が斬られて瀕死の状態、悠姫も人質に取られてしまった。必死に反撃しようと 立ち向かう十兵衛だが、その突き出す剣は力無く技無くアッサリと落とされ、 屈辱の極限まで叩き落される。
「この娘を返して欲しくば御前試合に来い。勝ち残れなければ娘の命は無いものと思え。」 冷徹な台詞と共に覆面の剣士は消えた。十兵衛に残ったのは 己の中の燃え切れぬ『何か』だ。
心配して引き返してきた又右衛門に、真剣で立ち合う様頼む十兵衛。
只ならぬ殺気に驚く又右衛門。
そして彼が見た、『本当の十兵衛』とは・・・!?
かくしてそれぞれの思惑を胸に、御前試合のその日を迎える。
対戦相手は一体誰なのか、決勝戦で待つといった謎の覆面剣士の正体は?
悠姫は、志帆の想いは、柳生家の面子は如何に・・・!!
歴史上の事実では?
『 史 実 』と一言で言ってもこれまたどれが信憑性があるものか分からない。 現代の様に克明なフィルムや物的証拠もままならない時代・・・その時々の歴史上で、 都合の悪い事実なんて山ほどあったと思う。誰にとって都合が悪かったかによっては 関係者全員の生命を絶っても隠し通さなくてはいけない事もあったであろう・・・。 「実際には言い伝えの方が正しい場合もある」のが歴史だと考えても良いのでは無かろうか?
寛永御前試合――――――
剣道史のあげる巷の噂の中の随一は、
「寛永十一年九月二十二日、将軍家光、各流の剣士を徴し、 江戸城吹上に試合を覧る。世に寛永の御前試合と称し、人之を伝う」である。
まぁ実際の所「御前試合」と言うのは「偉い人の御ん前で試合をする」事であるからして、 極端な話、どこぞの片田舎で役場の長の前で勝負したって「御前試合」になってしまう可能性もある。 教科書には載っていないのに特定の地方だけで不動の武勇伝が在ったりするのもそれだ。
実際にこの「寛永御前試合」に関しても、あくまで“噂”であり、徳川家の公式記録とされている 『徳川実紀』によれば“この日家光は神君家康が祭られている日光東照宮に参内に行った”とされており、 歴史家達の御前試合否定論の根拠の一つとなっている。
ただ、柳生但馬守の弟子であり非常に武芸好きであった家光が、名剣士を御前に呼びその技を見た 可能性は多分にあると言える。 ともあれ明治時代になって、講談師達が巷の噂に大幅な誇張を加えた為、より一層多数の説が生まれた 訳だが、その「言い伝え」の幾つかを列記してみよう。
御前試合を見物したのは誰?
○ 「将軍家光のみ」説
○ 「有力大名や一部の旗本も列席した」説
御前試合が開催された日にちは?
○ 「二十二日のみ」説
○ 「二十二日から 複数日間試合があった」説
審判役は?
・将軍家剣法指南役,大目付
柳生新陰流総帥 柳生但馬守宗矩(当時64歳)
・将軍家剣法指南役
小野派一刀流二代目 小野次郎右衛門忠常(当時28歳)
上記二名とされる
出場選手は?
◆ 柳生 十兵衛(江戸柳生新陰流)
◆ 柳生 兵庫助(尾張柳生新陰流)
◆ 宮本 武蔵・伊織 父子(ニ天一流)
◆ 荒木 又右衛門(江戸柳生新陰流)
◆ 羽賀井 一心斎(羽賀井流)
◆ 東郷 重位(示現流)
◆ 高田 又兵衛(宝蔵院流槍術) 等々
また・・・・・
◇ 由比 正雪(心貫流)<後に慶安の変(由比正雪の乱)を引き起こす!
◇ 関口 弥太郎(関口流柔術)<当時まだ生まれてもいない筈?!
・・・・・後世の創作による説がほとんどと思われる。
上記の様に公式の記録という物は一切残っておらず、単なる噂に過ぎない寛永御前試合ではある。 しかしその分空想の羽を広げる余地が十分にあり、小説、芝居、映画、ドラマなどのテーマとして 今だに使用されているのである。
まだまだ沢山の謎と神秘に包まれた日本史の世界・・・。
今後も山田直樹のペン先で、意外な「史実」が発掘されて行く事であろう。
乞う、ご期待・・・!!
<<CAST>>
柳生十兵衛・・・・・山田 直樹(アストラエア)
柳生 左門・・・・・宮地 靖彦(アストラエア)
悠 姫・・・・・・国広 友美(小櫻京子劇団)
柳生又十郎・・・・・守尾 青芳
志 帆・・・・・・川島 にじ子
荒木又右衛門・・・・中込 昇
宮本 伊織・・・・・飯干 隆子(東映TVプロダクション)
服部 半蔵・・・・・千田 義正(東映TVプロダクション)
鶴 之 丞・・・・・高島 綾子(オフィス・ビックバン)
亀 乃 助・・・・・中島 久伸(エムズ・カンパニー)
徳川 家光・・・・・岩井 慎(アストラエア)
柳生兵庫助・・・・・日高 将之
小野次郎右衛門・・・熊谷 季彦
◎
松平伊豆守・・・・・望月 雄介(クレセントシアター)
◎
宮本 武蔵・・・・・川田 真路(飛田企画)
◎
柳生但馬守・・・・・薬師寺 順(友情出演)
<<STAFF>>
舞台監督---奥村 幸司(エムズ・カンパニー)
照 明---佐々木睦雄(エス・ピー・エス)
音 楽---上北沢トオル
音 響---角崎 好孝(サウンドすみちゃん)
大 道 具---春山 知久(アルチザン)
殺 陣---柴崎 滋(宮川六真会)
振 付---守尾 青芳
衣 装---宮川六真会
---東宝コスチューム
か つ ら---山田かつら
小 道 具---高津装飾美術
---宮川六真会
---宮地 靖彦
---中島 久伸
宣伝美術---柳田 努(劇団STAND-BY)
製 作---奥村 幸司
---川口真紀子(スカイワーズ・プロモーション)
企画制作---プロジェクト・マイン